日本全国旅して見ると、時に目を奪われるのが、斜面に折り重なるようにある棚田の風景。
春には水を張って空の色を映し、夏には青々と生命感を漲らせ、
秋には黄金色に彼岸花の赤を添えて、傾いた陽射しに美しく輝く。
四季折々、文字通り多彩な表情を見せる棚田の風景はどこか懐かしい。
それは僕ら日本人がはるか昔から受け継いできた生活のにおいがあるからに他ならない。
棚田100選が選定されたのは1999年。
100選といいつつ全国134ヶ所あり、本書ではそのすべてを紹介。
特に風景優れるものはカラーの見開きに、その他のものは地域ごとに小さくまとめられる。
127ページ、カラーと白黒ページが大体半々という構成で、風景写真を主とした内容である。
少々残念だったのは、棚田の歴史や灌漑様式、平地の水田との比較などの記事が少ないところ。
傾斜の利用できない平地の水田は灌漑が難しく、本格的な開発が行われたのは近世以降のことである。
自然傾斜を利用して水を導く棚田こそは、日本の稲作の原風景と言える。
棚田を見て素朴な懐かしさを感じるのは、その光景から自然と共生した営みを感じられるからではないだろうか。
そこにあるのは僕らの主食である米が作られる、古くから受け継がれた生活景である。
「旅先は山あいの桃源郷 棚田です」
本書の帯にある紹介文。非日常感を与える美辞麗句は、棚田に感ずる風情の本質を表現しているとは言い難いのでは。
観光としてレンズ越しに棚田を眺める。それもまた良いだろう。
けれど、日本人が長きに渡って受け継いできた生活景としての棚田を捉えられれば、その味わいはもっと深くなるのではないか。