■作品紹介
マグニチュード9.0を記録し、その後の津波で2万人を超える死者を出した2011年3月11日の東日本大震災。さらには福島原発の放射性物質漏れとその後の政府や東電の不誠実な対応は、「安心」と「信頼」の代名詞であったジャパンブランドを失墜させ、日本は今や先の見えない停滞感に悩まされている。本書はそのような歴史的転換期にある日本において今日本で何が問題になっていて、日本はこれからどのような道を歩むべきか、そしてそのためにどのような施策が必要かについて、様々なバックグラウンドを持った多くの識者がそれぞれの観点を論じたものである。
■感想
まずこの本を読んで感じるのが、寄稿者の日本への愛である。これだけ多くの著名人(その半分以上が外国人)が日本と日本人を深く愛し、日本の復興を信じそのための助言を惜しまず、日本が再び栄光と信頼を取り戻すことに期待を寄せてくれている。僕はひとりの日本人としてこの事実に勇気づけられると供に、日本には再生の可能性が少なからず残されていて、その実現を信じるに値すると確信することができた。日本の未来に希望を抱かせてくれたという意味で、本書の存在に感謝したい。
さて、本書は記者や経営者、学者、あるいは建築家や小説家といったその道の第一人者達が「日本の未来について」というテーマに基づいて3〜6ページ程度でそれぞれの意見を簡潔に述べてたものである。そのため国籍や業界といった枠を超えた様々な立場からの様々な意見が冗長になりすぎない簡潔な形にまとめられており、まさに「珠玉」の一冊となっている。特に日本を長らく調査してきた外国人記者やリサーチャーの方々の言葉は非常に参考になるところが多く、マッキンゼーは本当にいい仕事をしたなと感心させられた。
例えばブルッキングス研究所員のポール・ブルースタイン氏は、衝撃的な事例を以て日本の国際影響力の低下を示した。2008年7月、日本の経済産業大臣である甘利氏が国際貿易に関する話し合いをするためにジュネーヴにあるWTO(世界貿易機関)本部を訪れた際、なんと会議の開始時刻を教えてもらえず、さらには何時間も建物の外に締め出しを食らったというのだ。ブルースタイン氏は、日本がこのような文字通り「国際社会からの村八分」にされる事例は他にも存在し、日本の国際的な影響力の低下を顕著に物語っていると指摘している。そしてその原因を歴史を振り返って分析すると共に具体的な対策も提示しており、まさしく日本で普通に暮らしていては耳に入らない貴重な提言だと言える。
しかし内容は良くも悪くもバラバラで、上記の例のようにハッとするようなユニークな視点から日本の問題を切り取ったものもあれば、自著や自社の紹介に終始して何の提言もない残念なものもあった。また、多様な意見を拾い集めたとはいえ、「日本の未来について」という統一テーマについて語る際にはその問題点について触れないわけにはいかず、結果として似たような分析や解決策が提示されることが多々あった。具体的には労働生産性の低さや少子高齢化、政治の不安定といった問題点に対し、ダイバーシティ推進や移民の受け入れ、教育制度の是正といった解決策である。つまりは日本の問題点は相当解明されていてやるべきことも明確になっているということなのだろうが、似通った意見がかなり目立っていて少しうんざりしたというのも正直な感想である。取材しておいて載せないということはできないので仕方ないが、もう少し量を減らすこともできたのではないかと思う。
しかし本書が非常に示唆に富んだ良書であることは間違いなく、日本の未来について真剣に考えさせられる大きなきっかけになった。今回の震災で日本の将来を憂いている方々、どうにかして日本を良くしたいと考えている人たちには是非一読願いたい。