導入部の控えめな地名由来のエピソードだけで、谷川氏の地名に対する深くて暖かい共感に満ちた思いに感動させられる。読みやすい文章ではない、結構癖があるし、学者さんとしての正確さを重んじた几帳面な文章である。でも熱い思いが伝わってくる。圧倒されて一気読み必至である。個人的には、自分の少し特徴のある苗字がいかなる由来のものか知ることができ、日本に初めて渡ってきたご先祖様に対面したような衝撃だった。父から断片的に聞かされた家系の由来が一々合致し、ああそうだったんだと、納得させられた。また居住しているあたりの地名由来を知って、今もその記憶がこの地域に生きていることを実感もした。
歴史的記憶と言えば、書物になっているものが一番正確で信頼しうるものという思い込みがある。しかしそれよりもっと古く、口伝え、あるいは地名としてだけ残っているような民間伝承的な歴史的記憶が、官製的な歴史よりずっと長く正確に人の歴史を伝えていることもあると、足を使った丁寧な調査によって証明されていると思った。
地名はただの記号じゃないんだ、私と同じく、今日の暮らし明日の暮らしを求めて生きてきた人と土地の絆を表しているんだと知って、心に愛が漲ります。