日本の名城を扱った本やムックは多数出版されていますが、本書はそれらと一線を画すような素晴らしい鳥瞰図を掲載しています。
「城にとりつかれた人」とかげ口をたたかれた荻原一青氏は、明治41年(1908)に生まれ、昭和50年(1975)に亡くなられました。
戦時中の空襲でそれまで集めた古写真や古書籍、妻子を失い、戦後の台風で私生活の全てを無くし、日雇労働をしながら、古城を描き続けたというエピソードは鬼気迫るのを感じます。鳥羽正雄博士と出会い、「正保城絵図」に基づく鳥瞰図と城郭復元図を完成させたそうで、本書掲載の絵図を残して生涯を終えたと解説の西ヶ谷恭弘氏が述べていました。
掲載の各城の鳥瞰図を眺めているだけで荻原氏が成し遂げた仕事の素晴らしさを感じることができるでしょう。アマチュアの絵師ですし、報酬も名誉も関係なく、ただ古城に魅せられてその美しい姿をとどめたい、復元したいという思いで描かれているわけで、無垢の行いが観る者を圧倒することでしょう。
古城を愛する人にとって「正保城絵図」は根本史料ですし、その他の絵図もまたその城の往時の姿を偲ぶ際の大切な史料ですが、荻原氏の鳥瞰図と比較すると分かりやすさの点において段違いです。
166ページに荻原氏の故郷の尼崎城鳥瞰復元図が見開きで掲載してありました。大物浦に隣接する地域に城があったようで、今は伺い知ることができない尼崎城下の威容が伝わってきます。現在、城の遺構としてみるものはないと書かれていることからも、この城の復元鳥瞰図の素晴らしさと努力が理解できると思います。
勿論、他の本と同様、現在の城の写真や解説、築城年、築城者、歴代城主、残存遺構等の情報は記されていますが、類書と一線を画す素晴らしい鳥瞰図の存在は何物にも代えがたい輝きを放っていました。