後世に歌い継いで欲しい日本の近代歌曲の珠玉の作品を集めたアルバムです。原曲の持つ味わいを壊さないような素直な歌唱とアレンジですので聴きやすい作品に仕上がっています。ベルカントくささを感じさせない素直な発声ですので、万人に愛されるソプラノだと思います。
清水かつら作詞、弘田龍太郎作曲による幼き日を思い出させるような「叱られて」を、鮫島有美子は美しい抒情性を持ちながら歌っています。日本語ってこんなに美しかったのだと思い、郷愁を感じました。
島村抱月、相馬御風作詞、中山晋平作曲の「カチューシャの唄」は、女優松井須磨子が芸術座の「復活」の劇中歌として大ヒットさせた曲です。大正ロマンを感じさせる懐かしい歌唱でした。
「荒城の月」は、明治34年に出版された「中学唱歌」に収められており、近代歌曲の体裁を取りながら、日本の伝統的な音階に近いメロディを持っています。土井晩翠の格調の高い詩は、会津若松の鶴ケ城を思い浮かべ、瀧は故郷大分の竹田にある岡城をイメージしたようで、栄華必衰という無常観が如実に伝わってきます。鮫島の歌唱は、悲運の瀧廉太郎の生涯と重なり、悲壮感がより強く感じられました。
北原白秋作詞、山田耕筰作曲の「かやの木山」も最近の若い世代の方はご存知ないかもしれませんが、日本の原風景とも言うべき山間部での家庭の暖かい団欒を描いています。
同じコンビの「待ちぼうけ」は、ユーモア溢れる楽しい曲です。「韓非子」を出典とする「守株」の故事成語に由来するこの曲を、巧みなテンポの変化で鮮やかに蘇らせました。
1984年7月に山梨県立県民文化ホールで収録したものです。ピアノ伴奏は夫であるヘルムート・ドイチュですので、息はぴったりとあっています。