「平和を欲するならば、戦争を理解せよ」は安全保障を学ぶ人間にとって金言だが、それと同様に戦争を知るためには軍事について知らなくてはならない。軍事的常識がなければ、自分達が採りうる手段すら分からないからである。
筆者は日本が保持していない最先端の軍事力について考察することで、それを自衛隊が得ることによってどのようなことが可能になるのか、また、今後の日本にとって必要な軍事能力は何なのかを検討する。ここでは弾道・巡航ミサイル防衛、長距離攻撃能力、空対地精密攻撃能力、パワープロジェクション能力、宇宙戦・サイバー戦能力の5つの能力が対象となっている。本書を読んでいると、兵器などの専門用語の多さに圧倒されそうになる。私も安全保障を専攻としているが、文中に出てくる兵器をすべて理解できたわけではない。しかし、筆者が主張することは明快で、正しい軍事知識がなければその是非を論じることはできないという意図を汲み取ることはできた。
具体的な内容に関して言えば、チャフやオトリにも対処できる弾道ミサイル防衛システムの進展や、巡航ミサイルの探知や、空対地精密攻撃能力での可動性の目標物と防護された目標物への対処の困難性など、最新の軍事技術についての動向は興味深い。一つの兵器を購入・製造することで、一つの問題が簡単に解決するわけではないことがよく分かる。また、昨年自衛隊の本来任務に付け加えられた国際平和に資する活動は、十分なパワープロジェクション能力を持たない日本にとって、そもそも積極的に海外に派兵することなどできないという筆者の指摘は、本書の主旨を的確に表している事例だろう。
精神論を一切排した軍事の世界は冷徹なイメージが付随するが、本書で示されたように軍事は可能・不可能で語られるため感情的な攻撃論とは一線を画する。懸念されるのは軍拡の危険性であるが、それは技術的な要請よりも政治的な必要性を重視することで、無用な軍拡を牽制していくことが求められるのだろう。敷居は高く感じられるかもしれないが、専門外の方にこそ読んでいただきたい一冊である。