東大系の学者と京大系の学者の時代区分のちがいを手掛かりに日本史のあやうさを説く本とみた.日本が日本になったのは唐にならって律令制を制定し,班田制を施行してからである.それ以前はなんだったのか?それを古代と措定すると中世がいつはじまるかという問題がでてくる.開始時期は荘園の成立をメルクマールとする平安中期説から太閤検地まで下げる安良城説まで諸説ふんぷんである.井上の大胆なところは唐の制度を引き写しに7世紀に成立した国家はそもそも古代国家でないのでないか,と考えたところにある.(内藤=宮崎によれば,中国では古代が漢で終わっているから.)井上が指摘するように日本では原始社会から古代を飛び越して中世に入ったとする説はソビエト科学アカデミー版の世界史につとに記されている.(60年代には翻訳が出た筈)だからなにも新説というわけではないが,東洋史と日本史の不整合を誰の眼にも解かりやすく説いたのは大きな功績.日本国家が成立したということは日本が唐を中心とする東アジアシステムの[半周縁]に組み込まれたということに他ならない.書名が「古代に日本はなかった」ならいっそう内容にふさわしい.