日本においてノーベル賞といえば押しも押されもせぬ「権威」であり、それは「ノーベル賞もの」という日本語が誉め言葉の慣用句として完全に定着していることからもわかる。だから多くの日本人は「ノーベル賞受賞」があたかも「天からの贈り物」〜絶対的権威からある日突然「下される」もの〜として認識されているのだ。
だが、それは事実ではない。
ノーベル賞とは、スウェーデンという北欧の小国が、明確な意図のもとに運用しているものだ。その意図の第一はもちろん自らの生き残りと尊厳を高めるためだが、同時に世界へ平和をもたらし差別をなくしていこうという理念にきわめて忠実に運営されているのだ。その理念は善きものであり、日本人としても共感できるものだ。
賞が発する最大のメッセージは、「誰を受賞させるか」ということだ。
世の中に卓越した業績を上げた研究者は綺羅星のように数多くいるのだから、その中から「どの国から」「誰を」選ぶかということについて一定の意図・方針がなければ、現実的に選考作業を行うことが困難になるのである。
結果としてノーベル賞の選考には、ノーベル財団と永世中立国スウェーデンからの意図がはっきりと籠められている。それを明快に解読したのが本書だ。詳細は本書を呼んでいただきたいが、「唯一の非西欧国で自前の科学技術を確立した国」として日本には高い「期待」がかけられているということだ。それが2008年の「日本人ノーベル賞ラッシュ」の背景である、と。
本書の表現を借りれば、所詮は「人間がつくり、人間が毎年決めるノーベル賞」なのである。
その「意図」を知っておくことは、これからの科学技術政策を考える上にも有益であろう。