著者が『諸君!』、『表現者』、『中央公論』、『正論』、その他に98年から本年2010年にかけて発表してきた論考を一部修正加筆したうえで三部構成のテーマ別に並べなおして一冊にまとめたもののようですが、序章を含め全15章のうち第10章まではここ数年間に執筆されたものばかりで切り口となっている話題に「鮮度」が感じられます。
第一部は経済のお話〜ケインズ、ポランニー、ベル、・・・・
従来の「産業主導モデル」では経済が立ち行かなくなった米国は80〜90年代に「金融主導モデル」へのパラダイムチェインジを行い、グローバリズムという形で世界経済全体をそこに巻き込んで行った。日本も米国に追随する形で「構造改革」と称してそれへの適応を図ったが、それは従来手をつけてこなかった生産要素(労働、資本、自然資源、人間組織など)をも市場化することによって新たな利潤産出図ろうとするものであるがゆえに、結果として市場経済の土台である「社会」をも破壊してしまっている。われわれの「社会」を今一度立て直すには・・・
第二部は政治のお話〜プラトン、パジョット、・・・
戦後憲法を理想とする「建前」とそれ以前の古くからから継承してきた「本音」をうまく誤魔化しながら使い分けて「戦後日本」は機能してきたのだが、その象徴が自民党であった。一方、理念もなく二大政党制だけを目指して自民党から飛び出し、その「建前」の部分のみを取り出して代弁するだけで政権に着いたのが民主党である。その後の民主党政権の混迷ぶりを待つまでもなく、浅薄な「建前」だけに基づく「国民のための政治」は単なるバラマキの域を出ない。今日の危機的状況の中で日本のとるべき進路をしっかりと見据えるためには戦後日本が自明として来た価値を疑うところからやりなおさねばならないのでは?
第三部は文明・文化の視点から〜ニーチェ、京都学派、竹内好、・・・
100年以上前にすでに囁かれ始めその後西欧社会に徐々に瀰漫していったニヒリズムは、その極限形の産物ととも考えられるナチズムややはり西欧近代主義の一つの極限形たる社会主義〜スターリニズムの出現によってもたらされた第二次世界大戦〜冷戦の間に自由、民主主義、人権などの西欧近代主義の理念が再確認されたこともあって、覆い隠されていたものの、冷戦が終結するに及んで再び顕現化して、われわれ日本人もそれにすっかり飲み込まれてしまっている。まずはそうした現状認識から始めるしかないか。
などと書くと、全体の連関が乏しいような印象を与えてしまうかもしれませんが、実際に読んで頂くと今日の状況の根底にニヒリズムを見据えた保守本流(?)の議論として寧ろよく纏っている気がします。
「価値」というのはそれこそ自明なものではなく作り出してゆくべきものであると考えると、本書のタイトルにはやや不満がありますが、全体として著者の保守の立場からの提言には説得力があると感じられたため、★5つとしました。