テーブルの上、何気なく置かれた籠の上に積まれた蜜柑。
部屋の隅で無愛想に立ちすくむ年代物のスピーカー。それらに
意味があるかどうか、普段は考えることさえない。
この写真集では、なんの目新しさもなく、むしろ見慣れ過ぎて
無視したくなるようなそんな日常品の数々が突然、得体の知れない、
禍々しささえ感じさせるような存在となって目に飛び込んでくる。
それは、彼等に今まで気付く事もなかった私を
静かに恫喝してくる様な、凄みのある光景だった。
日常品に意外な象徴性を潜ませるのに成功した要因は、
シンメトリカルで無機的な構成に徹底した創作姿勢か。
しかしそれ以上に際立っているのが、ほんの些細な妥協も混じり得ない
であろう、安村氏の集中力なのである。
頁をすすめるにつれ、私の居る場所がいかに不鮮明で、
不確定なものなのかを教えられた。それは眩暈を憶える程の驚きでも
ある。
並外れた構図感覚と着眼点の鋭さが光る、志の高い作品。