朝日新聞に2年間にわたり毎週掲載されていたエッセイが元になっており、連載中から楽しみに読んできたが、1冊に纏まり通読するとまた別趣の感興をそそられた。
著者は宗教学者で、仏教史特に原始仏教(インド仏教)が専門だ。本書はあくまで釈迦の考えたことや説いたことを論理的に述べ、盲目的信仰や神秘主義、因果応報等とは距離をとる。第1話の「最強の知恵者とともに」から最終第100話「釈迦の教えに魅せられて」まで、2,500年前に真剣に生き悩んだお釈迦様がベースとなる。釈迦の説いたことは悟りへの道であり、本来の修行(精神集中や瞑想)が智慧の源であるとの指摘は読む者の腑に落ちる。更に、現代日本の教団や僧侶のあり方、仏教教理や経典に対しての仏教原理主義者(「釈迦の仏教」にこだわる著者)からの発言は新鮮だ。
また著者は化学工学の学究徒から文学部哲学科へ転じたようで、仏教と科学は接点が多く相互補完関係にあると考え、仏教の本義の説明も合理的だ。物理学者、脳科学者、遺伝学者達との交流も折々にでてくるが、素粒子学者戸塚洋二さんとの出会いと没後の追悼は感動的だ。死別と言えば、新聞連載中に議論を引き起こした「自殺は悪でない」(第40話)も考えさせられる。生き残った者が自殺者を安易に貶めるべきではないとの説話には、キリスト教、イスラム教等とは異なり絶対者を認めない仏教の穏やかさを感じた。
本書は新聞連載が何回か延長になったようで重複が気になるし、1話がそれぞれ短く若干の物足りなさがある。しかし、釈迦の言葉を平易かつ論理的に述べており、釈迦を今に生き返らした意味ではアトラクティブだ。「生き死に」に悩みの多い現代人のための仏教入門書としては最適の1冊だと思う。