カリブ海に面した南米の架空の国の独裁者である"大統領"の見かけ上の栄華と挫折を通して、権力者あるいは一人の人間の孤独を浮き彫りにした作品。実験的とも言える高度な小説手法が駆使されている。
冒頭、死した大統領の邸に踏み込む闘士の視点から描写が始まる。そこから一転、大統領の回想の様な形で過去の様々なエピソードの描写が始まるが、そこでの記述形式は、大統領の一人称、三人称、話題中の人物の一人称等が切れ目なく混在する。小説における記述主体の自在性が追求されている。また、折に触れ冒頭のシーンに戻ったり、トピックスの繋がりも柔軟で、小説における時間軸の自在性も同時に追及されている。
大統領の描き方も、その蛮行や奇癖をあげつらって滑稽味を強調した風刺・寓話的部分、些細な事象を緻密に描いた写実的部分、母との愛情を中心にした人情譚・民話風部分、海辺の(心象)風景や動植物の描写を初めとする幻想譚部分等が、これまた切れ目なく混淆し、読む者を独特の世界に惹き込む。翻訳なので正確には言えないが、行変えを全く行なわない文体、長短の文章の組合わせ等、記述スタイルにも工夫を凝らしているようだ。
奔放に紡がれる言葉の洪水の中で、大統領の悲哀が普遍性とリアリティを持って読む者に迫って来る辺りは作者の卓越した力量だろう。読み応えのある一作だと思う。