驚くべきは当時のインテリにとって欧米
コンプレックスが斯くも重いものであったか、
という事実である。今日の我々には最早想像
を絶するものがある。だが我々は欧米を超克
し得たのか?
本作品は欧米と日本との相克を、戦争前夜
のパリを舞台に、男女の交流の上に照射しよう
と試みたものと思われる。日本精神を体現する
主人公に、著者は明らかに肩入れをしている。
だが何故に日本精神が優位であるのか、その
証明過程の彫り下げが不足しているように思
われた。尤も描かれたパリの情景と心の機微
は美しい。
連載が始まった昭和12年から筆者が亡くなる
までの時代の激変を映して登場人物の運命も
変わったであろうと想像されるだけに、未完の
絶筆となったことが惜しまれる