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8 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
美しい文章,
By 燈台守の卵 "人生の厄介息子" (<受難>を冠した県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫) (文庫)
本書は美しい文章の宝庫である。
(前略)工藤君の一言は私の舟を取りまいている氷に、目に見えぬひびを入らせたようであった。 フランスの詩人、シュリ・プリュドムの有名な詩に、 花びんが扇で軽く打たれた それは目に見える傷を生じなかった 時がたつにつれて、ひびわれは成長していった。 ある日、花びんはひとりでに砕けた というのがある。いまこの文章を書きながら、私はふとこの詩を思い出した。 このような文章からは、著者の教養の広さ・深さが、ふと、自然に漏らされている印象を受ける。 私は当時、何も知らなかった。若草の生いしげる野を歩いていて、たとえ草いきれがいくらか重く胸 を圧したとはいっても、その野の真中に、大きなおとしあなのあることには、少しも気づかなかった。 だからこの事件を「私は……」という形で書きつづけることは出来ない。 自伝としては奇妙な形式かもしれないが、この部分だけは、まったく三人称で書いておくことにする。 そうしたほうが、私という人間を、客観的に書けるという便宜も考慮しての上である。―― このような文章からは、著者の誠実な人柄がにじみ出ている。あくまで正確を期そうという、著者 の意図が銘記されている。 私たちの研究室は、できたばかりの物理学教室の二階にあった。(中略)壁の上には、一面につたが はっている。その下で数匹の山羊が遊んでいる。山羊は、時々奇妙な鳴き声をあげた。 毎日毎日、無限のエネルギーという、手におえない悪魔を相手にしている私には、山羊の鳴声までが、 悪魔のあざけりのように聞える。 このような文章など、暗さの中にも童話・メルヘンの世界も感じられる。しっかりと現実に根を下し ながら、空想の世界に遊ぶことも著者は出来るのだろう。 著者はお見合い結婚をする。そのときのことを著者は、このように、言語化していく。 さて、これから先は、湯川スミの語る当日の印象記である。 ここでも著者の、客観的であろうとする意志を見ることができるだろう。 最後に次の一文を引用しよう。 未知の世界を探求する人々は、地図を持たない旅行者である。
5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
時代の違いか,それとも。,
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レビュー対象商品: 旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫) (文庫)
いわずとしれた日本初のノーベル賞受賞者,湯川秀樹博士による自伝。湯川博士がノーベル賞を受賞したのは昭和24年。敗戦という傷を負った当時の日本人の心をおおいに湧き立たせたそうである。
この自伝は,生い立ちから受賞理由となった中間子論の着想を得て世界に論文を発表するまでの半生を「旅」に例え,旅人である自分のその時々の思いを綴っているものである。 奢らず気負わず淡々とした語り口は,「無口」で「内気」と自分でおっしゃる博士の人柄がそのまま表れているように感じる。 読んで思ったのは,天才は,若いころから勉強に対する発想が全然違うということだ。 博士は,高校のころから明確に自分の進む方向として物理学を目指し, 大学進学後は,少しでも早く世界の最前線レベルに追いつき, 新しい発見をしようと努力を重ねる。 総大卒時代とも言われる昨今では, 自分が何をしたいとの明確な考えもなく大学に進学する人も多いのではないかと思うが, なんという違いだろう。 しかも,若いころから自分が何か世界的に新しい発見をしたいという目標を持って勉強するとは,なんと驚くべき志の高さなのか。 凡人である私にとって「勉強」とは,せいぜい教科書に書いてあることを理解し,覚え,使えるようになることであり,学生時代に,教科書以上に自分で何かを発見したり構築しようなどとは思いつきもしなかった。 頭の構造がどうも全く違うんだなぁ・・・, もうひとつ思ったのは,当時の教育システムについてである。 湯川博士は,旧制高校である三校を経て京大に進学したが, 三校と京大がなんとなくつながっている感じで, 三校の教員たちも専門分野を持つ研究者ばかりである。 実際,湯川博士によると,大学入試よりも三校の入試のほうが難関の感触で, 高校にさえ入れれば,あとは専門家である先生たちの授業を聞きながら 自分の進みたい分野を見極め,高校・大学を通じて, 好きな分野の専門書や論文をどんどん読んで研鑽を深めることができたようだ。 このような教育システムが,若い天才の能力を伸ばした側面もあるのではないだろうか。 もちろん,そのような教育システムも,元々優れた能力を持っていなければ活かしきれないだろうが, ともあれ,受験戦争やマニュアル的な勉強に縛られず,自由に楽しく勉強(湯川博士は「研究」を「勉強」と読んでいる)できる環境というのは素晴らしいな,と思った。
25 人中、19人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
哲学的物理学者の記録,
By 時代錯誤 "山水" (栃木県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫) (文庫)
湯川秀樹は、外面的には日本人として、初めてノーベル賞を受けた人であるがこの賞には、賞の質を高める人と賞に寄り掛る人がいる。湯川は、賞の質を高める人物であろう。日本最高の知性として理論物理だけでなく平和活動に、又晩年は、あらゆる分野に学際的な活動をされた。極めて好奇心の強い、且つ深い洞察力の人である。この半自伝とも云うべき「旅人」は、記憶を遡れる限りの幼少期の記憶から始まり、敗戦の日本の渦中の記述で終っているが、この自伝に色濃くの滲み出ているのは、ひとり歩む孤独な旅人としての湯川秀樹である。本は、明治期の知性の典型的な育ちを思わせて、日本人の素晴らしさを認識させる。子供時代の漢籍の素読は、老荘思想に近づかせた原因の一つであろうか?後年の「素領域理論」は、「月日は百代の過客にして行き交う年も又旅人也」の芭蕉の感慨をも思わせるものがある。実験と数学を駆使した、現代物理学、分けても超重力、超対称性理論、超弦理論などは、数学的整合性のみで進められるかの感がある。不思議に哲学が感じられない。いかなる高邁な理論も、その根底には、自己存在の謎に対する神秘感、洞察があるはずだ!それが無ければ、理論は数学的アクロバットに終ってしまう。物理学も終局的には、外的世界、宇宙、そして、意識と自己存在の問いに答えを出す事にあるのだ、ビックバンから生命の発生、DNAから脳へと、意識の根底に横たわる、遥かなる記憶を生きて居る間に辿ってみたい。
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