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言葉が十分には理解できないまま国境を越え、アジアの少女はヨーロッパの中で孤独を抱えて長年月を過ごします。読者は少女とともに「帰属感の喪失」を味わいながら、この小説の中で絶望的な彷徨を繰り返すことになるはずです。私はそのもどかしげな寂寥感を主人公とともに堪能しました。
とはいうものの、この小説は読者を選びます。というのも、これは主人公が作中では「あなた」と呼ぶだけの女優の出演作13編を作者なりに一度解体した上、この少女の数奇な運命と映画の内容とを重ね合わせ、<二重らせん構造>に組み直したものなのです。
各映画の筋書きは断片的に語られるだけで、映画解説風の詳細な描写ではありません。映画を未見の読者にはそれぞれの粗筋を十分には理解できないかもしれません。
特に最終章は映画との連関が一切説明されません。「セルマはアメリカに亡命してそこで死刑の宣告を受ける前に、ベルリンで三年間、暮らしたことがあった」という書き出しに頷くことができるのは、ビヨークがセルマを演じた「Dancer In The Dark」を見たことがある読者だけです。
セルマは異郷に生きるための慰めをミュージカルに見出していました。セルマと少女は鏡の関係にあるのです。
こうしたことを読み解けない読者をこの小説は最初から受け入れてくれません。読者に対するハードルの高い作品だといえます。
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