そろそろ回想録を……、と提案されて、著者は考えました。
ジャーナリストとして歩んできた自分は、何かを成し遂げてきたわけではない。むしろ、いろいろな形で「弥次馬」として関わってきた他人様を書くことで、かえって自分を表現できるのではないか、と。
といっても、交友関係は広く、語るべき取材対象も多岐にわたっている著者ですから、取りあげたい人を全て書いていたら、いったいいつ終わるのかわからなくなります。本書執筆に当たって決めた方針は、「一業種一人」という制限です。
ですから、「ニュース23」のエンディングテーマを作曲して歌ってくれた井上陽水も、朝日新聞社内で認め合った“畏友”石川真澄も、他の人物のエピソードの一部に登場するだけです。筑紫ファンには若干もの足りない気もしますが、確かにこの一冊を読めば、著者の歩んできたジャーナリスト人生、反体制的な生き方が俯瞰できます。著者の意図通りといってよいでしょう。
私があらためて感じたのは、筑紫氏の文章の魅力の一つは詩的表現にある、ということでした。
なかでも、絶筆『我、拗ね者として生涯を閉ず』の完成を目前にし、壮絶な最後を遂げた本田靖春氏を追悼した文章は、読者の心に染みる、魅力に満ちた文章でした。
笑っちゃったのが、忙しすぎる小澤征爾を心配して、本人に言っても通じないからと家族に言ったら、娘の征良さんに笑われたそうです。
「その通りだけど、あなたが言うのはどうかと思う」と。
もっと笑っちゃうのが、しばらくしてから、同じ征良さんから言われた言葉。
「だれの言うことも聞かない。
言ってもらえるのはあなたぐらいしかないかも」
それにしても、仕事とはいえ膨大な取材相手と接触して、よく人間嫌いにならないものです。
同じ感想を抱いた視聴者からの言葉、
「人あたりしませんか?」
に同感しました。