読んでいるあいだずっと、暖かいものが内側から沸々と湧き上がるのを感じていた。
この本には、伊勢氏がパリに数週間滞在して、セーヌ河近くにある伝統的な装丁の工房に通う日々が記されている。この滞在によって、絵本『絵描き』や『ルリユールおじさん』が産まれた。私は数年前にパリに2年間住んだ。なので、この本で出てくる場所は殆ど全てありありとその情景を思い浮かべることができる。特に驚いたのは、パリの最もお気に入りの場所の一つであるサン・ジュリアン・ル・ポーヴル教会とその前にあるアカシアの樹が伊勢氏にとっても重要な存在となっていたこと。このアカシアの樹は、おそらくパリの中では最も古い樹の一つであるといわれているもので、私はわざわざこの樹に会いに行くためにその地を訪れた。『ルリユールおじさん』の表紙に描かれている大樹は、この樹だったのかと思い、嬉しくなった。また、その教会ではショパンのコンサートが頻繁に開かれていて、おそらく伊勢氏が聞いた人と同じピアニストのコンサートを私も聞いた。なので、この本を読みながらそれらの記憶が噴出し、同時にそれが伊勢氏の暖かい眼差しとも混ざり合って、表現しがたいほど複雑な、心地よい読書体験を得ることができた。この本を切っ掛けにして、ここに描かれている場所を訪ねてみてはいかがでしょうか?おすすめします。