名著といわれていたのは知っていましたが、なぜか読んでいなかった本を、文庫化と同時に読みましたが、いやー、単行本で読んでおけば良かったと思います。もちろん『忘れられた日本人』は読んでいますし、網野善彦さんの本からも、少しは人となりは知っているつもりでしたが、旅から旅への生活を続けた素晴らしく耳の良い人だったらしいという印象だけというか、なんか得体の知れない人物だな…とは思ってたんです。
ところが全然違う。安岡正篤さんの評が一番、的確だと思ったですが、宮本さんを仁者だと言っているんですね(p.257)。宮本さんは貧しい農家に生まれ、モールス信号を打つ逓信講習所に入り、そこから師範学校の二部に通い、民俗学の地道な研究といいますか、日本全国を歩き回って聞き取りを行ったんですが、すぐに老人とも打ち解けることができ、何時間でも話を聞いてあげることのできる人だったそうです。
そうしたフィールドワーカーとしての宮本さんを一番買っていたのが渋沢栄一の孫で日銀総裁や大蔵大臣にもなった渋沢敬三。渋沢敬三は私費を投じて自宅に私設研究所をつくり、無職の宮本さんを養い、旅の旅費を用立てたという二人の「巨人」の足跡が重厚に描かれています。