手塚治虫の「新撰組」は、
主人公の「深草平十郎」(オリジナルキャラ)が、
2回の自己喪失(アイデンティティ・クライシス)を
経験する場面を物語の「核」として描いている。
○1つは、「深草」が復讐の連鎖に虚しさを感じる場面。
主人公の「深草」は父の仇を討つ、という熱い思いで新撰組に入隊し、
その後、その目的を果たす。
しかし、その結果、今度はその仇の娘から自分が「仇」として
命を狙われることになり、その復讐の連鎖に虚しさを感じる。
○そして、もう1つは、クライマックスの
共に戦ってきた、親友の「鎌切大作」が、
実は長州のスパイであったと知る場面。
この時、「深草」は、自分が絶対と信じてきた正義(=幕府を守るということ)を、
それが古い考えだと親友から否定される。
幕府を信じてきた「深草平十郎」という主人公は、
とにかく、熱い男として描かれて、
一方で、それに対し、親友の「鎌切大作」はクールでドライに描かれている。
手塚は、時代の価値観を盲目的に信じる、熱い男を主人公と設定し、
途中まで、それを「正義」のように描いておきながら、
最後の最後で、その親友が、
実は全く別の価値観をもった人間だったと、予想外の展開をさせることで、
主人公の価値観を相対化させたのである。
深いし、見事だ・・。
子供向け漫画のようなPOPな手法を用いながら、テーマは深い。
やっぱり、手塚治虫な作品。