「桶狭間の戦い」は、幼い時分に衝撃的なインパクトを受け、以降、歴史に興味を持った大きなきっかけとなった出来事だけに、今まで何冊かの本を読んできたが、本書は通を唸らせるだけの考証・人間関係・心理描写が綴られていると思う。豊明市在住の友人によると、本書は地元の書店では平積みで置かれているとのことであるが、定説の桶狭間本に飽き足らない人、また、疑問を感じている人にも新鮮な驚きを持って読める内容だと思う。迂回攻撃か正面攻撃かという方法論を軸に、この戦いに関しての本を何冊も刊行している某教授の著作の内容が薄っぺらいものに感じるほど、特に、当時の尾張・三河国境地帯の検証が分かりやすくなされている。前述の友人宅に行く機会に感じることであるが、古戦場付近である豊明市の丘陵は起伏に富んだ地形である。本書では略図に示して解説を試みる箇所が多いが、地元で語られている地名の由来などとも合致しており、この辺りの様子を十分に実地検分されていることが感じられる。本書が、時代研究の第一人者と目されている教授や有名作家の手によるものではないことに「これだけの考証・推察・持論ができるんだ」という驚嘆・衝撃・称賛の念を感じた。このところメディアでも歴史ものが取り上げられる場面が多いが、名が通った人の論や講演ばかりをありがたがる風潮ではなく、このような本や、ていねいな歴史(実地)考証をしていることにスポットライトが当たることを願う。