倉橋由美子氏が、「星の王子さま」を子供向けの童話としてではなく、「大人のための小説」として訳出したもの。倉橋氏の遺作でもある。本書は倉橋氏のこの視点と原版のカラー挿画(のコピー)がそのまま使用されている点が特徴だろう。
倉橋氏は王子を「自分の中の反大人」と捉えている。砂漠での飛行機事故で死に直面した飛行士の心に芽生えた「幻想としての反大人」と考えても良いだろう。有名な言葉、
「肝心なことは目には見えない」
「大人って、とっても変だ」
は、やはり一定以上の年輪を積んだ大人にしか理解し得ない面があると思う。だからと言って、子供が本書を読む事に何ら差し支えはない。子供にとって知的冒険は必要なものだから。それにしても、狐との会話は示唆に富む。
「あんたのバラがあんたにとって大切なものになるのは、
そのバラのためにあんたがかけた時間のためだ」
50才を過ぎた私には重い言葉である。過ぎた人生のリトマス試験紙の様。そして、そのバラが星々の一つに咲いていると想像すれば、全ての星を眺めるのが楽しくなる。世界観が変わる。
飛行士が奇跡的生還をする事で、「幻想としての王子」が消えるのは必然、即ち、結末での王子と飛行士との別離は必然であり、小説としての整合性が取れている。王子の思い出が飛行士の胸に残ると言う設定は、「大人と反大人の両立」の可能性を意味し、これが本書が長く語り継がれている所以であろう。