岩波の南洲翁遺訓をまず購入したが、残念ながら自分には漢学の素養もないため読みこなせない。かといって、本書とは別の話し言葉で書かれたものを買って読んでみたがどうもしっくりこなかった。念のため原文と比べてみると、『些とも私を挟みてはすまぬもの也。』の解釈が、「適度なワガママは必要なモノだが、度を超えたワガママはいけない。」などという超訳。
この原書の魅力を掴みかねた後に手にした本書で、宝物を得ました。
『新訳』とありますが、個人的には『真訳』の間違いではないかと思うくらいストレートで、簡潔に、過不足なく、現代の言葉に置き換えられているのではないかと思います。
そのかわり作者が持っている西郷さんの逸話や生きていた同時代についての情報と作者自身の思いや見解が『余話』として一節ごとに付いています。
最初は、西郷隆盛の残した言葉をできるだけそのまま味わいたいので作者の個人的な見解など邪魔に思えました。しかし読み進むと、西郷さんの言葉が述べられた背景や豊富なエピソードと、その言葉へたどり着いた背景についての深い洞察、そしてなにより作者自身の日本という国についての意見や思いが語られています。文章に『魂を入れる』というのはこういう事をいうのだというくらいの熱意と憤懣をもって述べられているのに非常に引き込まれました。
特に感銘を受けたのは西郷さんが『国際情勢を知るには春秋左氏伝、孫子を読めば、そこに書いてあることと変わらない。』という趣旨の言葉と、それに続けて作者は『その二書に加えて教育に論語、孟子を加えるべき』という部分です。
四書の中で春秋左氏伝だけは未読ながら、ほかの三書についてはその英知を眺めたことがあります。良書は時代を超えるのではないかという確信が強まります。読んでいた『ローマ人の物語』が春秋左氏伝のようなものでないかとも思います。国と国との力関係と情勢というのは古来東西問わずかわらないのかもしれません。
作者入魂なので、慣れなければ引いてしまいかねないような正直な意見が述べられています。もっと売れてよい本だと思うのですが、それほどでもない原因は作者の意見が偏っているように感じさせるからかもしれません。しかしながら、私もまた偏っているように感じるけれども、不思議と西郷さんが真に考えていた意見に近い考え方に作者が迫ったのではないかと思います。
あくまで原書を味わい読みたい方は巻末に16ページ、原書の現代仮名遣い版がありますのでご安心を。
むしろたった16ページですむ文章をこれほどまでに掘り下げた作者の愛と情熱に敬意を感じる一書です。