チェーホフの目線はとても低く、温かい。最下層の人たちの生活、心情も細やかに書かれている。
各短編は起承転結でいえば、「転」の途中あたりで突然終わってしまうことが多い。
不幸な(あるいは罪深い)主人公たちの救いを読者は最後まで求めるのだが、それはほとんどの場合果されない。
モスクワ一歩手前で、シベリヤの原野に投げだされたような感じだ。
かといって、読んだ後フラストレーションがたまるというわけでもない。
余韻を残しながら、物語は次の物語へオーバーラップしながら引き継がれていく。
過去の記憶は薄い皮膜となって、幾重にも塗りかさなれる。
たとえ結末が物足りなくても、短編ごとの訳者の解説によりフォローしてもらえるから大丈夫。
その解説は少し鼻につくところもあるのだが、上手い文書だ。
チェーホフ生い立ちや当時のロシア文学における彼のスタンスが書かれてあり、作品を楽しみ、読み解くうえで大変助けになった。