93年に刊行された作品(文庫版の刊行は99年)の新装版。原作は内海隆一郎(小説家)の「人びとシリーズ」と呼ばれる短篇小説集から選ばれた8作品。加筆等はないがが、93年の単行本にはあった原作者のあとがきがなくなっていた。何故だろう・・・。
谷口ジローの描く絵は、「坊ちゃんの時代」経て、現在のように繊細な線で背景の中に人物が溶け込んでいるような絵で描かれるようになるのだが、この作品は現在の画風・作風を確立し始めた頃の作品にあたる。
主人公は老若男女様々。母親のわがままによって彼女の実家に預けられることになってしまった幼い娘、息子夫婦の家を飛び出してしまった兄といずれもちょっと訳ありの人物だ。そして、描かれるのは、これらの人物の日常に起こるこれもちょっとした事件なのだが、彼らの繊細な心の動きや揺れが微妙な表情の変化によって描かれている。谷口ジローのオリジナル作と言われれば信じてしまいそうだ。
93年刊行の単行本に記されている原作者のあとがきによると、この短編集のマンガ家を持ちかけたのは谷口ジローだそうであり、200編あまり書かれていたこのシリーズから8編を選んだのも彼だったそうだ。谷口ジローは原作者の作品の中に自分のオリジナル作と通じる何かを感じていたのだろう。
この作品の出来は、これも原作者のあとがきにある「できあがった作品すべてが、わたしのなかにあるものと寸分ちがわないのである。これは原作者冥利というほかない」という言葉がすべてを表している。
地味な作品集だが、しみじみとした気分を味わうことのできるいい作品集だ。
ここ最近谷口ジローの作品が新装版等で復刊されている。文庫版ではないところが嬉しい。彼の絵を味わうには文庫本ではあまりに物足りない。