本書は『孫子の兵法』で著名な二人の孫子を描いた作品です。
上巻では孫武、下巻では子孫である孫繽の生涯を主に『呉越春秋』『戦国策』等に基づいて描写されています。
上巻の主人公である孫武は平素は気が弱く、妻にも頭の上がらない世捨人然とした人物として登場します。彼は自ら戦場に立つ気概もなければ名声・仕官に利用しようという我欲もなく、ただ単に趣味として古戦場を巡り、得た情報を恣意的に書き記す旅を日課としていたのです。 そのような悠々自適な生活を送る彼の人生に次第に関わりをもつようになるのが楚からの亡命者・伍子胥です。彼は呉の公子光の元で祖国・楚への怨みを隠忍しながら自身の復讐を果たす為、ひいては公子と自らの栄達の為に賢人を求めていました。その彼と孫武の出会いが後の呉の版図拡大の歴史造形の起点と成っていくのです。
孫武の項では著名な人物等が多数登場します。孫武その人の視点からというより、様々な人物の織り成す物語・歴史全体を鳥瞰していくといったところでしょうか。
一方下巻の孫繽の項では孫繽を中心に物語が展開していきます。
個人的には上・下巻共にメッセージ性の強い作品だと思います。それぞれの登場人物の生き様には随分考えさせられました。特に晩年将軍の職を辞した孫武と尚も権勢を極めようと邁進する伍子胥の交流は必読です。 孫子を知る上では勿論のこと、当時の中国の風習・文化・通念を知る上でも楽しめる作品だと思います。