「分子や原子などの粒子の集団としての振る舞いを統計的に記述する物理」に統計力学という分野がある。統計力学は、現代物理の根幹的な役割を果たしているにも関らず、量子論や相対論などと比べると陰が薄い。したがって、統計力学について一般向けに書かれた本は少ない。
本書はそんな若干陰の薄い統計力学について、一般向けに書かれた数少ない本である。著者は、一般向けに面白く物理を解説する本を数多く書かれている都築卓司先生である。都築先生の専門は統計力学ということで、本書は結構深いところまで触れる。しかし、大変分かりやすく、しかも面白く書かれているので心配はいらない。
内容はマックスウェルの悪魔という「エネルギー保存の法則、エントロピー増大の法則」を打ち破る能力を持った悪魔の話から始まり、永久機関の話、エルゴード仮説の話…続く。そして、最後の章、カタストロフィー(悲劇的な結末)で、地球のエントロピーがこのまま増大したらどうなるかということについて書かれている。この最後の章はかなり考えさせられます。
本書は間違いなく「名著の中の名著」といって良いと思います。統計力学という学問を知るだけでなく、現代社会が抱える問題も見えてくるような本です。こんな素晴らしい本を後世に残してくれた著者に心から感謝したいと思います。