1842年生まれのアメリカ人作家、アンブローズ・ビアスの箴言警句集です。
ラ・ロフシュコーやハズリット、ラ・ブリュイエール等の著名な箴言作家達は、その言葉の辛辣さからくるイメージとは逆に、性格的には熱血の理想主義者でありましたが、本書の著者ビアスは家庭愛に飢えた子ども時代を過ごしたこともあってか、人間また人生に対してある深刻な絶望感を抱いていた人間のようです。
私の師匠が、所謂正統派の書物だけではなく、このタイトルを一見した時点で読むのを躊躇してしまいそうな本も読まれ、引用をしておられたのを見て「そうか、ある価値観に固執した狭い視野を持つのではなく、色々なタイプの作品を読み、様々な面・角度から<人間>という存在を探求し勉強する姿勢と度量を持てということなのだな」と気づかされ、今回読んでみました。それでも対象が人間性を探求した真剣に書かれた本である、という条件付きですし、本書は、ある程度の読書筋が付いた免疫のある状態で読む必要のある類の本であろうとは思いますが・・。
ともあれ書物に対するときも人間に対するときも、先入観や色眼鏡、常識に捕らわれない真摯な探求の姿勢で臨むことを、もっと徹底的に身に染み透らせたいものだと思います。
さて、本書は<辞典>というだけあって、項目はアイウエオ順になっています。例えば「あ」行は「愛国者」から始まり、「いかさま医者」「噂」「厭世観」などと続いて、「おんな」で終わっています。
「恩恵を施す人」・・忘恩をふんだんに買い付ける者。ただし、忘恩の値段は、そのために著しく値上がりするということがなく、依然として人は誰でもその資力をもってこれを購うことができる。
などという箴言は、現代でも十分考えさせられる威力があります。忘恩の人間は、シェイクスピアやセルバンテス、グリルパルツェルを始めとして多くの一流作家が最大の悪であると定義した悪徳の王でありますが、彼は未だ以って人間界にその恥知らずの大きな勢力を保っております。自分も心して感謝を忘れずに生きたいものです。
本自体は、読みやすい訳文で文章量も少なく、また各々の好きな箇所から読めますので非常に取っ付きやすいと思います。