本書は「聖書の世界・別巻」(講談社、1973)の一巻が、1997年に概説・一覧表などに一部修正・増補を加えて新版として講談社文芸文庫から再刊されたものであり、各文書の本文そのものは旧版と同じである。
本書収録の新約外典諸文書は全て、新約正典諸文書よりも後に成立したと見なされている。しかしそこに採用された口碑伝承は「正典諸福音書や使徒言行録の編集以前に想定される伝承様式とある程度即応する」(p.18)ことから、伝承様式の研究のための重要な資料であることは言うまでもない。また、その文学形式としては、当時の大衆文学としての文学形式の影響も受けており、当時の一般のキリスト教信徒の文化的状況を理解するためのモチーフを提供している。さらにグノーシス思想の影響を受けた文書を通して、当時の宗教史的背景を垣間見ることが出来る。
こうした意味で、本書に収録された新約外典諸文書は、2-4世紀頃の、正典成立の過程にあるキリスト教を取り巻く、社会的・文化的・宗教的な環境がどのようなものであったかを知る上での大変興味深い資料であると言える。
巻末にまとめられた各文書の解説は、各文書の研究史ならびに成立背景・思想的特徴などが簡潔にまとめられており、いずれも2-3世紀のキリスト教を取り巻く環境を知ろうとする者にとって、極めて有用な導入的情報を提供している。
解説ならびに各文書の翻訳の担当者は以下の通り(敬称略)。新約聖書外典―その意義と文学的・思想的性格/荒井献、ヤコブ原福音書/八木誠一、トマスによるイエスの幼時物語/八木誠一、ペテロ福音書/田川建三、ニコデモ福音書(ピラト行伝)/田川建三、ヨハネ行伝/大貫隆、ペテロ行伝/小河陽、パウロ行伝(パウロとテクラの行伝)/青野太潮、アンデレ行伝/藤村和義、使徒ユダ・トマスの行伝/荒井献、セネカとパウロの往復書簡/青野太潮、パウロの黙示録/佐竹明、新約聖書外典一覧/荒井献