今の世で言う「手品」の日本における歴史の立ち位置を、取材と推測を交えて現役の手品師がまとめたもの。作者は江戸の「手妻」といわれた水芸や浮かれの蝶を継承し我が物として高めた現在では唯一の芸人一門の長ですが、子供のころからの探究心からさまざまな人に取材し、体得していったものを実に豊富な文献を駆使して体系化し、大変興味深い作品となっています。
私はこの方の手妻を一度見たのですが、それは優雅な不思議で、まるで美しい女形の狂言舞踊を見るような様式美でうっとりとしたものです。水芸はたいそう装置にお金と手間がかかるということで、普通の寄席などではなかなかみられないのが残念です。
そんな芸を持つ手品師ですが、この一冊で彼がどれほどの教養の持ち主かがわかってとても感動します。今に残る古い文献をいくつもひもといて、その種明かしができるところはプロならでは。陰陽師の手わざも、「今昔物語」の外術も植瓜術も、マジシャンとして手順を検討している箇所は目からウロコがポロリ。宗教や呪術や科学、からくりなどと結びつき、変遷していった時代背景もおもしろいし、検証できる各時代の名人伝も読み応えあります。
こんなたくさんの知識を貪欲に身につけて、精査して、一瞬の芸を娯楽として、そして人の世のはかなさをなぞらえた究極の芸術として披露するのはやはり名人だといえるでしょう。この本は、日本のマジックの歴史のバイブルとなるでしょう。