進化生物学の知見を基にして、現代文明論・経済論まで論じた本。そのようなスケールの大きな論を試みた意気だけは買うが、残念ながら相当に力不足であり、全体的に見て読むに値する部分は少ないと思われる。
まず、本書のテーマについて。著者は「適応度万能論に対するアンチテーゼ」(前書き)などと大上段に構えた書き方をしているが、実は、変動環境の場合でも平均適応度が最大の形質が進化する、つまり「『平均的に』最も強いものが生き残る」というだけの話に過ぎない。また、人間社会の議論に文化的要因の話が全然出てこないのは変だ。ビル・ゲイツの様な「にわか成金」が多額の寄付をするのは自分の適応度をあげるため(2章)などいう説明も、それこそ別の意味で「適応度万能論」ではないか、と皮肉りたくなる。さらに、ゲーム理論が経済学に応用されたせいで市場原理主義が台頭したと述べているが(14章)飛行機が墜落するのはニュートンのせいなどと言うに等しい詭弁ではないか。
そもそも、前書きの結びに、市場原理主義に基づき下請けや季節工を切り捨ててきた(ここでその是非は問わないが)大企業のトップの言葉を我が意を得たりと紹介しているようでは、著者に市場原理主義を超える思想など期待できる筈もない(余談だが同様の台詞は2001年の小泉首相の所信表明演説の方が有名では?)。
それ以外にも、章節の構成が雑然としており、頻繁に無関係のエピソードが挟まっていて混乱するし、著者独自の仮説が既存の仮説とどの程度異なるのかが不明瞭である。専門的知識に関する誤りも目立つ(例えば、タカハトゲームに関して第2章の説明にも関わらず、第14章でタカ戦略が常にナッシュ均衡になると誤った説明をしている)。
とくに後半に関しては日本語が怪しい箇所も多く、最低限のチェックすらされていないことがうかがえる。編集者の姿勢も問われて然るべきだろう。