本書は、とくにシリア、レバノン、パレスチナなど、東地中海地域を中心にした、中東地域のキリスト教徒について扱ったブックレットである。
圧倒的なムスリム地域において、人口の1%に満たないキリスト教徒は、同様の状況にある日本のキリスト教徒とは大きく異なる点がある。
それは、この地域においては、キリスト教のほうがイスラームよりはるかに古い(!)ということだ。つまりキリスト教は外来の宗教ではないということであり、また圧倒的なマジョリティであるイスラームとは、同じ一神教であるという共通点ももっていることである。
中東のキリスト教徒は、その長い歴史のなかで、数々の苦難を乗り越えて今日まで生きのびてきたわけであり、そのことだけをとっても賛嘆に値する。
ただし、マイノリティであるキリスト教徒を十把ひとからげに取り扱うことはできない。日本と同様、教義によって、キリスト教徒はきわめて細分化されており、それぞれの教派に属する人口はまたさらに小さなものになる。
とはいえ、アラブ世界において彼らキリスト教徒知識人たちが果たした役割はきわめて大きいようだ。アラブ・ナショナリズムにつながるアラビア語復興運動は、聖書をアラビア語に翻訳する事業に携わったアラブ人キリスト教徒が指導的役割を果たしたことなど、アラブ世界においてマイノリティであるキリスト教徒が果たしてきた役割は大きいことを、本書によって知ることができる。
本書の著者は文化人類学者で、アラブ人キリスト教徒の多い、イスラエルの港町ハイファでフィールドワークを行ってきた人である。
そのため、もっとも特徴のあるのが、第2章「中東のキリスト教徒 その実像」に記された、キリスト教徒の具体的な衣食住やアイデンティティについて記された文章である。キリスト教徒が、イスラーム世界で使われる太陰暦ではなく、太陽暦に基づく農耕暦にしたがって古代から祝祭を行ってきたということが実に興味深く思われた。
中東パレスチナを、ムスリムとは異なる視点から見ることを可能とした本書は、「複眼的な視点」を可能とさせてくれる。知的好奇心を大いに満たしてくれる内容になっている。
中東問題に関心のある人は、一読する価値があるといえよう。