著者は歌舞伎町に立ち、主に中国系の外国人客を相手にこの街の「案内」をしている人物。中国の湖南省からやってきてこの街に立つこと早10余年。バブルの頃から以後の未曾有の不景気まで、街の栄枯盛衰を見続けてきた男ならではの興味深いエピソードが満載です。
私にとって歌舞伎町は映画館の町でしかなく、かつては上映時間の迫る中、小走りにコマ劇場前を歩くと幾度も風俗店の客引きに袖をつかまれたものです。しかし条例の改正などがあってここ何年かはそういうこともなくなりました。そんなこともあって、著者のような存在が今もいることは本書を読むまで気づきもしませんでした。
歌舞伎町の不思議さは、おそらく明らかに非合法であるはずのものが、行政当局によって根絶やしにされることが決してないというところにあるのでしょう。法に則ったものとそうでないものが混在することは、風俗店と区役所が目と鼻の先にあるという奇妙極まりない街の設計にも象徴的に表れています。
怪しげなエピソードが満載で、読んでいて飽きることはありませんでした。しかし必ずしも共感を覚える挿話ばかりかというとそうでもありません。やはり暴力や謀略に彩られたお話のひとつひとつは、自分の人生の中では遥かな距離をもっておきたいと思えるものであるからです。