この著者の作品は、ほとんど読んできたが相変わらず物語の発想と展開の速さには舌を巻く。
今回の舞台は「黒い家」のように日常の中にある現実的な部分から恐怖
をにじませていくのではなく、完全に現実からはなれた、未来の日本という
設定で物語りは始まる。
もちろん、主役を含め登場人物のひとつは人間だけれども、もうひとつは
この世界特有の生き物であり、この世界でいう「大事件」が発生して
人類の存亡をかけてメインの登場人物達が、多大な困難に遭遇しながら
乗り越えていくという、言葉にしてしまうとまったく単純なストーリーなのだが、
そこは貴志祐介先生。こんな平易な言葉では表せない、複雑かつ重みを
持たせた重厚な仕上がりになっている。
自分の勝手なイメージは「クリムゾンの迷宮」多人数バージョンなイメージも
ないではないが、まずは凡人では思いつかない舞台設定の中で、本書の舞台となる
特殊な世界の歴史を徐々に明かしながらクライマックスに持っていくその構成力と
スピード感に、ただただ驚くばかりである。
けちな自分は、文庫になるまでひたすら待ち続けてしまったのだが、文庫になってびっくり
上中下の三巻構成で、文庫であってもかなりの出費になってしまった。
しかし、そんなことよりもなによりも、会社の行き帰りで読もうと思ったが
とまらず久しぶりに、自宅に帰ってもお風呂にはいりながら、休日も朝からぶっ通しで
あっという間に読み切ってしまった。久しく感じてなかった、面白い本を読んだ後に訪れる虚無感というか、
物語りが終わってしまった悲しみを十分に感じていたので、自分にとっては
良作だったといえます。
ちょっとしたスリルな冒険を感じたい方にはぴったりではないでしょうか?
SF嫌いの人でもきっと楽しめると思います。