待たされた甲斐がありました。本作は貴志祐介の最高傑作であるだけでなく、日本SF史上に残る怪作です。酷評された『硝子のハンマー』以降、長期にわたり新作の音沙汰がなかったので、作家としてのピークを過ぎてしまったのかと残念に思っていたのですが、杞憂でした。『黒い家』、『クリムゾンの迷宮』、『天使の囀り』の頃のパワフルな貴志祐介が完全復活です。
読み始めた当初は、「少年少女が主人公」、「中世日本の長閑な農村風景」、「呪力」、「色々な架空の生物」といった設定から、トトロのようなファンタジックな話なのかと思い、「あー、貴志祐介またやっちゃったか」と期待外れを覚悟しました。しかし、世界観をある程度構築する序盤が終わるあたりで、世界の真の姿が明らかになり、以降は怒濤の貴志ワールドが全開フルスロットルです。『青の炎』のやりきれない哀しさ、『黒い家』で描かれた人間の狂気、そして『天使の囀り』や『クリムゾンの迷宮』の残虐表現がすべて詰め込まれたような物語で、読んでいる最中の気分の悪さは格別です。展開が強引だったり、ご都合主義だったりする箇所は多々ありますが、物語の勢いがそれらを補って余りあります。なお、そうした物語としての勢いもさることながら、緻密な世界観を構築したうえで、数多くの謎や前振りの大半を破綻なく活かし、まとめあげている手腕にも舌を巻きます。
ただし、SFという性格上、架空の生物、技術、競技などが数多く登場するため、多くの場面で相当な想像力を要求されるのも、また事実です。そのため、SFやファンタジーを読み慣れていない方は、語られているシーンをリアルに想像できず、本作をとんでもない駄作と感じるかもしれません。私としては、本作は貴志祐介の最高傑作だと感じていますが、過去作品以上に読み手を選ぶという点で、評価は賛否が大きく分かれるでしょう。