溝口ファンの間では評価が低い本作。それは凄まじいまでの悲劇の強度を誇る彼の代表作群と比べると、本作は吉川英治原作だけあって、若き平清盛が成長し天下人になるまでの青春時代劇ロマンに収まっているので、多くの溝口ファンが肩透かしを食らったためだろう。簡単に言うと、同じ吉川原作の漫画「バガボンド」の宮本武蔵のように、若い頃の苦労や貧しさを克服して主人公が自分の力で這い上がり、成長・出世していく様を描いているというか。
ただ、そもそもが時代劇ファンで、しかもこういう男っぽい単純な話が大好きな僕は十分に楽しめたのも事実で、またデジタル修正された映像美は今の時代の邦画では不可能なくらいに舞台美術が凝っていたことを感じさせる。大がかりなロケ・多用される群衆シーンも迫力満点だ。(主演の市川雷蔵の演技は若さの勢いに溢れたものだが、後年の色気や妖気がまだ無いのが残念ではある。)
僕は本作で描かれた清盛の出生を巡るエピソードは原作者のフィクションだと思っていたら、普通に同時代から噂されていたことのようだ。やたらエゴイスト・悪役として描かれることが多い人だが、平清盛という人物自体にも史的に興味を持てたのが思わぬ収穫だった。彼が若い頃はこんな苦労人で魅力的な人物だったと想像するなら、平家物語の味わいもまた深くなるだろう。