“ガン”という病気ほどその実像が解明されていない疾病も珍しい。その発生メカニズムすらも未だによくわからないとの状況である。けれど一つだけ確実な情報がある。それは日本の国民のうち3人に2人の割合で罹患するとの数字である。但し、この数字にも読み方がある。“ガン”に罹患したからといってそれが直ちに死に結びつくとは限らない。例えばテノール歌手のホセ・カレーラス氏や歌舞伎俳優の市川團十郎さんも白血病を克服し、プロゴルファーのジーン・リトラー氏や杉原輝雄氏もガンを克服し今もプレーを続けている。
このドキュメンタリーは著者がライフワークとする“ガン最前線”の最新刊である。著者とガンとの関わりは当初“医療を行う側”への取材から始まった(『ガン回廊の朝』『明日に刻む闘い』『ガン回廊の炎』)が、それが“患者から見た最期までの時間”へと眼差しが変わったのは千葉大学医学部に勤務する一人の医師との出会いだった。
その医師は自らのガン治療を克明な日記の形で遺し、自らその記録を著者に託した(『輝やけ 我が命の日々よ』)。これを境に著者の取材対象は180度の変化を見せた。日本の医療で最も大切でありながら実際には等閑にされてきた“患者とその遺された時間”つまり“Q.O.L(=QUALITY OF LIFE)”であり、医療を行う側はただそれをサポートするにすぎない。あくまでも患者が中心にいるべきなのだ、との認識へとそのスタンスを変えた。
この本にはガンと向き合って生きた人々とそのすぐ周辺にいた人々から見た主人公の姿が静かに記されている。登場する人物は昭和天皇からはじまって丸山真男、本田美奈子等々とまことに多士済々である。一話完結の形を採っているので何処から読み始めても良い。
今やガンは治すことのできる病気の一つとなったと言われるが、それでも命を落とす方々もまだまだ多勢いる。人は何時しか最期の時を迎える。その時がいつ訪れるかはそれぞれに異なる。その時に後悔をしないために“一瞬一瞬を精一杯に生きる”こと、“自らの命が託された命であること”を知ることを忘れて欲しくはない。これは1人の患者としての願いでもある。