生物学の啓蒙書はたくさん出版されているが,その中から求めるレベルのものを見つけるのは結構難しい。レベル(専門度)には決まった物差しがあるわけではないが,私は好気呼吸の説明をどのレベルで行うのかを見るのが手っ取り早いと思っている。「グルコースと酸素を二酸化炭素と水に変化させてエネルギーを得る」という中学レベルの説明ではもの足りない。でも,中間生成物の構造式と自由エネルギーの変化から個々の反応段階を理解していく大学教養レベルにもちょっとつきあえない。中間が「高校生物」だろう。
この高校レベルの説明もなかなか「帯に短かし・・・」で,普通の教科書的に「電子が電子伝達系とよばれる反応系で次々と受け渡されていく過程で多量のエネルギーが解放されてATPがつくられる」と書かれても,これだけ読んでも普通は何のことか分からない。本書では,化学構造式を使った専門的説明に頼るのをぎりぎり踏みとどまって,可能な限り厳密性を損なわないように説明が文章化されている。「読んでわかることにこだわり抜いた」と自負するだけのことはあると思う。使われる図も,よく見られる,補酵素の間を矢印の鎖で結んだようなものなどではなく,工夫した模式図化をすることによって,この過程のイメージをとらえさせることに成功している。
読者に身につけさせたい理解のレベルをぶれることなくもち,そこに確実に導いてくれる啓蒙書だと思う。