科学的な話題を親しみ易い形で読者に提供するという「ブルーバックス」のコンセプトの域を越えた高度の専門性を持つ非常に充実した解説書。読者に阿ねず、光、質量、クォーク、ゲージ粒子等の物質の起源に関する厳密な基礎理論から始めて、それに基づいた応用としてのLED、TFT、 光ファイバー、半導体レーザ、超伝導、MRI、MRAM、スピントロニクス、量子通信(コンピュータ)、カーボンナノチューブまで幅広くカバーしている。最終章付近では、遺伝子工学、脳科学にまで足を踏み込んでいる。
実は応用物理に関する英論文を処理する必要に迫られ本書を手に採ったのだが、大いに役立った。論文中に出て来るcondensed matter, Raman spectra, photoelectron, ferroelectricity, scattering, X-Ray diffrartion, SEM等々の基礎物性、研究対象分野及び測定法に係わる専用用語の意味や用途が(勿論日本語で)体系的かつ詳細に解説されているので非常に有り難かった(私は日本語から上記の英単語を類推した。略語を除くと一般に専用用語に対する英語は併記されていない)。応用に関する解説も、「応用物理」の最新動向の勉強を主眼としている私には負けず劣らず役立った。全体を読んで見て、電子スピンと量子論の理解が不可欠な世界との認識を強く持った。また、身近な比喩を交えた専門的知識・技術の説明の仕方も巧みで、文筆家としての著者の才も感じた。
大学の教養課程の講義テキストとしても充分に使用可能と思える程の濃密な内容。この分野における日本人研究者達の多くの重要な発見・発明も話の流れの中で無理なく紹介されており、親しみを感じると共に心強さを覚えた。上述の通り、私は本分野の研究者ではなく、全体像や個々の専門用語を把握したいとの理由で本書を手に採ったのだが、その期待を遥かに上回る良質な解説書だと思った。