〈究極の無気力ロードムーヴィー〉
この映画をどう説明したらいいだろうか?街から街へ、ドラッグレースを渡り歩く2人の若者(ジェームズ・テイラー&デニス・ウィルソン)と、そこに転がり込んできた娘(ローリー・バード)。旅の途中で出会った、ポンティアックGTOを運転するオッサン(ウォーレン・オーツ)と、互いの車を賭けた、ワシントンDCまでのレース・・・
今から十数年前に、六本木のシネヴィヴァンでリバイバルを観た時に「こんな傑作があったのか!」と密かにこぶしを握りしめた。
しかし−
この映画は痛快なカーチェイスも、ドラマチックな展開も、洗練された会話も(それどころか車中で無言状態が延々と続くシーンもある)、オチも何もない。多くの観客が「映画」に求める要素が、ことごとく欠落している映画なのではないだろうか。その一方で、一部の映画ファンからは長年に亘り強く支持され続けてきた作品でもある。
では、何がこの映画の魅力なのだろうか。
〈モンテ・ヘルマン映画〉
アメリカン・ニューシネマの特集記事が雑誌に書かれると、決まって「断絶」は【'71年 米エスクァイア4月号の表紙を飾り、 The Movie of the Year にノミネートされた】と紹介される。このエスクァイア伝説に関しては後に述べるが、そもそも「断絶」はアメリカン・ニューシネマと呼べるのだろうか?
ハリウッドのメジャーシステムへの反抗を試みたニューシネマの精神的な背景には、ウォーターゲート事件やベトナム戦争などに対する、若者達の国や社会への不信があった。主人公(達)に悲劇的な結末が訪れるのも、アメリカの正義が偽善だったことへの怒りの表明、つまり、ニューシネマは当時の若者達の思想を強く反映した、体制への“反逆”のジャンルなのである。
しかし「断絶」には、そうした思想性が見当たらない。ラストはハッピーでもアンハッピーでもなく、物語(が、あるとすれば)は唐突にとぎれ、「断絶」されて終わる。
人生の目的もなく、さまよう路上にあるのは、倦怠感と孤独のみ・・・。我々は、60から70年代のアメリカを振り返る時、“カウンターカルチャー”という言葉でしばしばひと括りにしてしまうが、果たして、全ての若者達が社会に対する反抗心をもって生きていたのであろうか。カウンターカルチャーからさえも“ドロップアウト”した若者達のペシミズムを代弁している映画、そんな気がするのである。
この作風こそ、モンテ・ヘルマン監督の映画に共通するスタイルであり、本作の前に制作された西部劇「銃撃」「旋風の中に馬を進めろ」また、伝説のマカロニウェスタン「China 9, Liberty 37」といった作品に共通する、虚無感漂う物語は、もはやジャンル映画にあてはめることは難しく、強いて言うならば“モンテ・ヘルマン映画”としか言いようがないと、筆者は思うのである。
〈エスクァイア伝説の崩壊〉
いずれにせよ、60〜70年代のアメリカ映画の中でも、とりわけ神話的な位置づけにあった「断絶」だが、その背景にあるのは、エスクァイア誌の表紙を飾った映画だった、という事が大きいのでないだろうか。
この映画の製作で広報を担当していたスタッフが、脚本を同誌編集部に持ち込み、それを読んだ編集者が激賛。映画が完成する前に、堂々と表紙を飾ったばかりか、同誌が選出するベスト・ムーヴィー・オブ・ザ・イヤーにノミネート。これが永らく、映画ファンの間で伝説となっていたのである。
しかし、21世紀に入り、この伝説を覆す驚愕の事実が監督自身の口から語られた。エスクァイア編集部に持ち込まれた脚本は、完成前の3時間半に及ぶ内容のもの。しかし、実際に完成した映画は、オリジナル脚本の「半分にあたる1時間45分(実際には1H42Mか)まで短縮した」ものだった。映画は「彼らが予想していたものとは大きく違った」「卑怯者のカーレースだった」ため、エスクァイア編集部の担当者は、激怒したという。
このインタビューを聞いて、筆者を含めた何人の「断絶」ファンがのけぞった事だろう・・・。
モンテ・ヘルマンは、映画評論家や映画マニアからは強い支持を受ける一方で、興業惨敗を連発、「呪われた映画監督」の烙印を押されてメジャースタジオから完全に干されてしまう。
ヴィンセント・ギャロは当初「バッファロー66」をモンテ・ヘルマン監督で熱望したが、「ヘルマンが監督するなら金は出さない」とスタジオ側に言われて、泣く泣く自ら監督したと言われている。また「私は1セントたりとも興業で損した事はない」と豪語するB級映画の帝王・ロジャー・コーマンが唯一大赤字・惨敗を喫した映画がヘルマンが監督した「コックファイター」(いい映画なんですよ。闘鶏の試合に優勝するまで、絶対にしゃべらない誓いをたてた闘鶏師をウォーレン・オーツがいい味出して熱演してます!)・・・と、モンテ・ヘルマン伝説は尽きないが、このレビューもいつにも増して脱線&長くなってしまったので、「断絶」にリスペクトを表しつつ、この辺で唐突に筆を置くことにしましょう。
【燃え上がるPCの画面】END