若き日、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に心躍らせ、『坂の上の雲』では世界に意識が飛躍したものだった。
しかし、それは、あくまでも小説の世界でのことであり、興味を持って多方面から資料を読んでいくと、小説に描かれた内容とは異なる事実に出くわすようになった。この錯誤を解明するのに多年を要したが、小説を史実と誤認した自身の責任であったことに気が付かされた。
本書は、司馬遼太郎が描く乃木希典の姿を否定する形になるが、なるほど、そういう見かたもあったのかと、新しい発見に驚くばかりだった。
さらに、序章の六本木ヒルズから始まる物語において、早速に史実表示の相違を指摘するところに、興味を惹かれる。短いセンテンスで構成されているので、時系列に物語が進んでいるわけではないので少々、混乱するかもしれないが、この乃木希典、児玉源太郎という両名の対比で進む話は人間心理を窺うようでもあり、気持ちが硬直する。
歴史は多方面から見なければならず、半世紀を経なければわからない事実もあるということを示している作品なのではと思う。とりわけ、「司馬史観」に反発したことで排除される時代が過ぎ去ったのだという印象を抱いた。