偉大なるミステリのマエストロ、泡坂妻夫。
氏の作品は大別して三つの路線がある。
亜愛一郎やヨギ・ガンジー・シリーズなどの逆説と企みに満ちた本格ミステリ。
職人の世界や下町の叙情的な描写に裏打ちされた人情物。(一部の時代小説も含まれるだろう)
そして本書に収録されている作品に代表されるエロティックでトリッキーな心理ミステリ。
(もちろん一筋縄でいかない著者のことだから、人情物にみせて実は・・・などという作品もあるので要注意)
どの作風も完成度が高い作品が多いのだが、個人的には「湖底のまつり」に始まるこの心理ミステリ路線の作品の素晴らしさはもっと語られるべきではないかと考える。
一見ポアロー&ナルスジャックの諸作を想起させる世界だがプロットが脆弱な彼らに比べ、筆力が段違いなうえ、結末で読者を必ず唖然とさせる騙しの技巧はミステリ史上でも屈指。特に「黒き舞楽」は傑作。