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相撲、歌舞伎、文学など幅広い分野での碩学として知られる著者による、知的興趣あふれる「美味礼賛」。東大在学中の師弟交友から現在まで、食にまつわる多くのエピソードが開陳されている。
かつて著者は文豪の集まる荻窪近辺で、井伏鱒二邸近くに住んでいたことがある。敬愛しながらもついに訪なうことのなかった著者だが、その井伏の微に入り細をうがつ鰻談義を紹介するくだりなどは、著者ならではの視点にあふれている。「蒲焼は中串に限る」と自認する井伏が、程よい天然鰻を手土産に旧友を訪ねたものの、酔いすぎて味わえないままで終わった。このうやむやで中途半端な気分を誘うのが、井伏文学の魅力だと肩入れしているのだ。
一方の文士村は鎌倉。金子光晴の紹介状を持って川端康成邸を訪ねたある男が、出された菓子にとまどった。それは本郷三丁目の老舗「藤むら」で売られる黄身時雨。白餡に卵黄を混ぜ合わせ、練り上げられた崩れやすい菓子を、川端は削り尖らせた一本の楊枝を器用に使って食べ終え、迷っている男をあの鋭い目で凝視した----。
他にも、埴谷雄高とトンカツ、泉鏡花とウドンの物語などが描かれていくが、それらは著者が求める自身の「最後の晩餐」へと収斂されていく。
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