太宰治,坂本龍馬,天草四郎といった文豪・偉人から,名もなき市井の人々を含む39人の愛の行方を,著者自らが訪ね,折々の風物を交え,情感豊かに綴るオムニバス形式の物語集。著者は,今や現代俳句を代表する才色兼備の女流俳人。その流麗な筆致によって,忘れられつつあった悲恋の物語が,鮮やかによみがえる。地方ごとにまとめられたそれぞれのエビソードには,物語の主人公たちの略歴や,その舞台となった土地へのアクセスの案内図が掲載され,小旅行のガイドブックにも使いたくなる一冊。所々に差し挟まれた情緒あふれるあるモノクロの写真には,主人公ゆかりの風景にたたずむ著者の様々な姿が映し出されており,その目は,遠い過去へ思いをはせているようで興味深い。
「あの歴史上の人物に,こんな秘められた愛があったなんて」と,その意外で切ない物語に,思わず胸を締め付けられる。それはなにより,まるでリアルタイムで見ていたかのように,実際の土地の風情にことよせて再現してみせる筆者の筆力のなせる技かもしれない。文章が美しすぎる。本当はもっとドロドロしていて,生臭いものだったかも知れない話を,実にうまく浄化してような解釈は,一種の鎮魂の書として読まれるのかも知れない。