1年ほど前にも雑誌『Coyote(コヨーテ)』が柴田元幸を特集したことがあった。そちらは書店で立ち読みしただけなので内容はあまり覚えていないが、カラー写真が多く掲載されており、柴田の「生活空間」のようなものが垣間見れるのはファンにとってありがたいことだと感じたことだけは覚えている。かなりコアな作りになっていた気がする。
一方、本書はカラー写真の枚数ではたぶん負けるかもしれないが、興味深い特集がいくつか組まれている。作家の高橋源一郎や古川日出男、翻訳家仲間の岸本佐知子らとの対談は、読書好きだけでなく、英語を学ぶ者にとっても示唆するところが大きい内容だと感じた。また、これまで柴田が翻訳してきた作品の「翻訳書リスト」が載っており、何かと役に立ちそうだ。
しかしこの特集の中でも出色なのは、「書き出しで読む−「世界文学全集」英米篇」であろう。ここには、柴田自身がもし大学をクビになったりしてヒマになったら翻訳してみたいと思っている英米の古典作品の冒頭の一節が集められている。現時点では試訳のようなものだろうが、タイトルを見ただけでも興味をそそられる。『マクベス』『アブサロム、アブサロム!』『白鯨』『トリストラム・シャンディ』『フランケンシュタイン』などなど。すでに邦訳があるものばかりだが、いつかこれらの作品のいくつかでも柴田訳で読める日が来ることを願う人は多いはず。柴田元幸という宝箱からはまだまだすごいものが見つかりそうな気配である。