2006年夏に惜しまれつつこの世を去った作家、吉村昭さんの特集号。
徹底した取材に基づき、抑制した筆致で対象を丹念に、
そして冷徹に描き出した数々の優れた小説は、
今もなお、多くの読者を惹きつけています。
この臨時増刊号は貴重なお写真(取材時のスナップ、奥様との団欒、
手書き原稿や作品を生み出した書斎)を巻頭に、初公開の
「作家生活の原点 三陸で知った史実へのこだわり」や
二つのロング・インタビュー、逢坂剛さんや関川夏央さんなどの
「私の愛する吉村昭」、旅先での思い出や酒を語った随筆集、
そして奥様である津村節子さんのインタビュー、巻末のブック・ガイド、
略年譜など実に充実した内容です。
森史朗さんの「作家は自分の足で歩け」に記された取材秘話、
浅見雅男さんの「吉村昭が惹かれた十人」なども、とても興味深く読みました。
現在、日本は大変な試練に直面していますが、吉村さんがいらしたら
『三陸海岸大津波』の作者としてのみならず、数々の史実を
冷静な目で観察してきた傑出した作家として何を感じ、どう書かれただろう、と
考えてしまいます。その不在を寂しく思うのは私だけではありますまい。
吉村さんの作品を愛する作り手の気持ちがすみずみまで
感じられる本書は、ファンのみならず、これから吉村作品を
読みたいという方々への願ってもないガイドであると思います。