05年から08年に週刊朝日誌上で「文芸予報」といタイトルで連載されていたコラムと同時期に朝日新聞紙上に掲載された書評をまとめた一冊。簡単に掲載順にするのではなく、テーマ別(ジャンル別?)に構成してまとめる芸の細かさが彼女らしい。タイトルどおり内容は彼女の本業である文芸評論だ。
小説も商品である以上、作者の手を離れた時点で、その使用方法(読み方)は使用者(読者)の自由だ。もちろん、斎藤氏がよく言うように「誤読」するのも読者の自由だ。そして、その小説に「書評」というかたちで新たな商品を世に送り出すのが文芸評論家と呼ばれる人達だ。よって、私たちには、この書評という商品もどう読もうと自由であるはずだ。
斎藤美奈子氏の書評は非常に商品価値が高い。なぜなら、私自身が未読で彼女が書評で貶している作品も読んでみたいと思わせ、また、既読であるが私自身の読み方と彼女の読み方がまったく異なっていた場合でもそれはそれで楽しめてしまうからだ。彼女の書評はもはや芸の域に達しているといえる。
彼女の芸は、勿論真面目な部分もあるが、基本的にはイジリとおちょくりと笑いだ。しかし、彼女にはそうやっている自分自身をも笑い飛ばしてしまう余裕と冷静さをもっている。だから彼女の書評には毒はあっても嫌味がないし、貶している作品まで読んでみたいと思わせるものになるのだ。
多少趣きは異なるが、「文学賞メッタ斬り」という文芸各賞を中心に小説(あるいは文壇)を豊崎由美・大森望氏の両氏が対談型式で語るという企画作品がある。このメッタ斬りが最初に刊行されたときには、その言いたい放題振りが話題になったはずで、私もかなり楽しんだし笑ったのだが、シリーズ化されていくうちにおもしろさが薄れていった。理由は両氏の評(語り)に言いたい放題というだけでそれ以上の芸がないからだ。言い換えれば、貶しっぱなし、褒めっぱなし、いじりっぱなしで余裕がないということなのだと思う。