実際には文字大夫さんの時代しか聞いておりませんが、その後住大夫となり、いまや人間国宝となった方に、山本千恵子さんという方が聞かれた話をまとめたものです。全部で19の演目を、それぞれ語った直後に聞かれたようですから、大夫としてお客さんに聞いてもらいたいところ、実は語るのが難しいところが生々しく書かれています。柔らかな大阪弁の喋り言葉で書かれていますから、とても読みやすくできています。思わず膝を打って同意したくなるのが、「近松ものは字余り字足らずで、私嫌いでんねん」という第5章。どうも近松ものというと、特に東京ではお客が入るようですが、曽根崎心中とかは文楽作品としては一度消えて、昭和も30年代に曲が付けられた新曲もので、あまりデキがいいとは思えません。昔々の記憶ですが、舞台もやたら暗くて面白いものではありませんでした。それにもかかわらず、近松ものというと、学者風のお歴々まで出てきてあれこれ言ってくるのに住大夫さんは、割と率直に不快感を示されています。初めて文楽をご覧になる方は、近松という名前だけで劇場に行かれると文楽を好きになれずに終わるかもしれません。そんなとき、この本でどんな演目を見ればいいかがわかります。あと、驚いたのは国立劇場では客席で飲食をさせないとか。。。文楽では「そりゃ聞こえませぬ」です。もっとも私の妹は、ある大夫さんにずっと見つめられた語られたので、お弁当が食べられなかったという経験を持っておりますが(笑)