「初めて観るならこの演目がおすすめ8」と「劇場必携演目ダイジェスト24」では、有名な「女殺油地獄」や「曽根崎心中」など、文楽の代表的な演目を取りあげる。公家や武家を扱った「時代物」と、町人世界を描く「世話物」という分野に分かれた物語の見どころを、人物相関図や舞台写真を豊富に使いながら解説している。また、通常の演劇や歌舞伎ともちがう特殊な舞台構造や、緻密に作られた人形の首(かしら)や身体部品など、観客席からはうかがい知れない部分の紹介も貴重である。
近年では若年層のファンも増やしている文楽に、まずは親しんでみてほしいという主旨で制作された本書。実際に人形を動かす人形遣いや、語り手である太夫、情景を盛り上げる三味線弾きとして第一線で活躍する人たちへの「新世代インタビュー」では、伝統を重んじながらも、他ジャンルとのコラボレーションを試み、新しい風を取り入れようとする現場の声が伝わってくる。これから劇場に足を運んでみようという読者のために、文楽の魅力を余すところなく詰めこんだ入門書だ。(砂塚洋美)
登録情報
|
たとえば『曾根崎心中』のダイジェスト解説のこんな文章。「足首の青白さはエロスとタナトスの極みを放って美しく、目を閉じたまま軽く 身を震わせるお初の姿は悲哀以上に官能的です」。
あるいは、『夏祭浪花鑑』についての「熱気が粘りつかんばかりの、真夏の大坂。夜となってもぬるい闇がぬめぬめと垂れ、闇を一層濃くするかのよう。そこで繰り広げられる凄惨な殺しをダイナミックな美学として見せる段は、夏狂言の代表作として上演され続けています」。
いくらでも引用したいが、まずは手に取って読んでほしい。美しい写真を見てほしい。いろいろにアクセスしてほしい。
そうすれば、『摂州合邦辻』に関するこんな文「道ならぬ恋、と言ってもこの作品の場合は、若い人妻が義理の息子に狂おしく迫る恋です」の続きが読める。
しかし本当のことを言えば、松平は本書を読んでもらうことよりも劇場に足を運んで文楽を聴き、観てもらうことを熱く望んでいるとすぐに気付く。
アクセスしなくてはなにも起きない。
つけくわえれば、この本は図書館において多くの人に読んでもらいたい本だと思う。地域の、小学校、中学校、高校の、多くの人が文楽にアクセスする手助けになれるように。
|
|
|