ところでこんなふうに、筆者の頭脳には不向きなことをとりとめもなく考えているのは、ハンチントンの近著『文明の衝突と21世紀の日本』を読んだからである。
本書は新書版で手軽だが、内容的には大変なことが書いてある。構成は大きく3つに分かれていて、最初のパートのテーマは、冷戦時代とガラリと変わってしまった世界構造のなかで日本はどういう選択をするか、である。日本は過去、常に一番強いと思われる国に追随する戦略をとってきた。そして近い将来、中国が経済的にも軍事的にも強大になってきた時に、日本は、アメリカか中国か、追随すべき国の選択を迫られるという。
2番目のパートでは、唯一の超大国となったアメリカのとるべき戦略をテーマとしている。ハンチントンは、アメリカがパワーを保ち続けるためには、唯一の超大国であることをあからさまに押し出すべきではないとする。それをやると反アメリカ包囲網が形成されるという。
そして第3のパートでは、文明の衝突理論を簡明に説明している。1993年に発表されて世界的なベストセラーとなった『文明の衝突』を読んだ人も、もう一度本書のこの部分を読むと、今世界各地で起きている複雑な紛争の意味が理解しやすくなるだろう。
米ソ冷戦時代が終わって、世界各地で噴き出した紛争は、かつての国家間の紛争とは様相を異にした。いわゆる内戦とも違って、民族と宗教と文化が複雑に絡み合った国家横断的な戦争が始まっていた。『文明の衝突』はそういう時代の到来を鮮やかに予測していた。本書では、今起きている紛争を例に挙げて文明の衝突理論を解説しているのでよりわかりやすい。
国家とは別の枠組みで戦争が始まった。それは国家を超えて影響力のある文明間の対立だという。これからは、国家よりも文明の差異が世界の政治・経済構造では重要になるのだそうだ。ハンチントンは、日本を中華文明から独立した1つの文明としているが、それなら、あえて国家概念を明確にするより、曖昧は曖昧でそれを日本文明の特質とし、他文明との差異に敏感になった方がいいかもしれない。
(ジャーナリスト 野口 均)
(日経ビジネス2000/2/28号 Copyright©日経BP社.All rights reserved.)
登録情報
|
|
|
|