至極真面目な妖怪論である。常日頃、自らの小説の中で「妖怪は人の心の中に棲むモノ」と言い切っている著者が"何を今更"と言う感じなのだが、良く読むと形を変えた"水木先生賛美論"なのであった。まず、柳田国男までの多様な妖怪談義(解釈・分類法)を紹介・整理した後、水木先生が登場するのだが、結局ここが焦点で、それ以前の論議は単なる前座に過ぎなかった事が分かる。
私は小学生の時、少年マガジンに連載されていた「ゲゲゲの鬼太郎」を読んで(相前後して「墓場の鬼太郎」も読んだが)、初めて「妖怪」というものを知った。多くの現代日本人にとって、「妖怪=水木先生が描いた妖怪キャラクター」という観念が定着していると思う。水木先生は柳田までに存在していた曖昧な妖怪の概念に"怪しくて懐かしい"カタチを与えて、その存在を世に知らしめた妖怪界の大功労者である。本書は、それを学究的見地で改めて検証し、水木先生の方法論・業績を称えた物と言えるのではないか。それにしては、"まだるっこしい"気がするが、著者の多言・薀蓄癖が出たという事だろう。相変わらず、各頁の最終行を文の終りと合わせる作法を守っている点には感心したが。「妖怪の形」に関する考察は、著者の本業のイラストレータとしての宿業が出たものか。
肩書き(?)とは反して、「豆腐子増」シリーズ以外は妖怪小説を書いていない著者だが(「豆腐子増」も実は妖怪解題小説)、水木先生と同じ土俵では戦えない(そのため、上述の「人の心の中に棲むモノ」という別の方法論を採っている)という潔い諦観があるのだと思う。本書も、「豆腐子増」を論文風に纏めた物と言って良いかも知れない。個人的には、「妖怪馬鹿」のような砕けた物の方が好みなのだが、体系的論説の好きな妖怪ファンの方にとっては一興だろう。何より、水木先生を中心とした昭和30〜40年代の"妖怪史"の記録文学としての価値があるのではないか。